14MHz用垂直ダイポールアンテナの製作 JQ1QNV
10mグラスファイバーポールを使用した14MHz用アンテナを考案しました。移動運用のための 仮設のアンテナです。表向きは^^; 本当は14HMz用のアンテナがほしく なったけど家じゃぁせいぜいグラスポールを上に伸ばすくらいしか出来ない…
垂直だと地面の影響もあり、グランドプレーンが良いような 気はしますが、ラジアルの工作や設計がめんどくさそうなのでダイポール(DP)に しました。性能を理想的なDPに 近づけたいのですが、構造の制約上、下側エレメントと給電線の同軸ケーブルが近接するので、その影響を出来るだけ小さくしたことがこのアンテナの特徴と言 えます。アンテナの設計と言うより給電線の設計といったほうが良いかもしれません。今回製作したアンテナの概要を図1に、設置した様子を写真1に示す。
写真1 設置風景 図1 14MHz垂直ダイポールアンテナの概要
1. アンテナの特性解析
垂直DPの性能をMMANAで計算してみました。悪影響となるであろう給 電線の設計を行うために、理想的なDPと の比較の意味で、地上の影響は計算に入れず自由空間で解析し、給電線の悪さの加減を確認しました。アンテナは給電点に平衡に給電されると仮定して、給電線 の外被を下側エレメントの直近に配置された別のエレメントとして計算しました(図2)。その結果、給電線の外被が共振状態にある場合、利 得が1.59dBiと悪く、電流も給電 線外被に多く流れて、エレメントからきちんと電波が放射できないことが分かりました(図3、図4)。
図2 解析モデル概念図(給電線対策無し)
図3 放射パターン(給電線対策無し)
図4 電流分布(給電線対策無し)
解決策として、給電線が共振するときの電流の腹の位置(1/4λ)にコモンモードフィルタ(40μH以上のインダクタンス)を入れて給電線外被に流れる電流を抑制することで、ダ イポールとしての性能に近づけられることがわかりました。(図5〜7)
図5 解析モデル概念図(給電線対策有り)
図6 放射パターン(給電線対策有り)
図7 電流分布(給電線対策有り)
2. コモンモードフィルタの設計
前述のとおり、対策方法として給電線の1/4λの位置にコモンモードフィルタ(40μH以上のインダクタンス)を入れることで、給電線の誘電による影響を無視できる までになることがわかりました。インダクタンスからトロイダルコアへの巻数を計算したところ、FT-140-43 を2つ並べ た状態で5回以上巻けばよいという結果 になりました。
3. 給電線の製作
3.1 給電線3D-2V の外被の短縮率
コモンモードフィルタを入れる位置を決めるために、同軸の 外被(の外側)を流れる電流の短縮率を知る必要があります。伝送経路 として、芯線と外被との間で送電する場合の 3D-2Vの短縮率は0.67 の値が公表されていますが、外部から誘導される場合の(外被を外から見たときの)短縮率が判らないので実測してみました。2.7mの同軸ケーブルの真ん中くらいで輪を作って吊る し、その輪の部分にディップメータを軽く結合させて測定しました。当初、作製中の給電線で測定しようとしましたが、長くて、廻りの影響受けるせいか、うま く測れませんでした。仕方が無いので、切れ端の2.7mで 測定したら0.9という常識的な値に なったのでそれを信じることにしました。
3.2 コモンモードフィルタ付給電線の製作
バランからチューナ部までの給電線はコモンモードフィルタ と一体で製作しました。と言っても、同軸ケーブルをトロイダルコアに通しただけです。3D-2Vを1/2λの7m程度に切断して、両端にBNCコネクタを 取り付け、BNCから4.7mの位置で トロイダルコアに巻き付けます。少し余裕をみて6回巻き付けました(図8、写真2参照)。FT-140-43ですと、BNCコネクタをはんだ付けした後でも6回程度ならトロイダルコアに巻くことができます。
図8 コモンモード フィルタ付給電線
写真2 コモンモードフィルタ
4. バランの設計・製作
アンテナの下側エレメントと、給電線外被がつながっている ので、これを高周波的に分離しなくてはならず、バランが必要になります。MMANAの 計算結果から、ここのインダクタンスは給電線の途中に入れたコモンモードフィルタよりも小さいインダクタンス(5μH)で済むことが判りました。インダクタンスから トロイダルコアの巻き数を計算したところ、FT-114-43 で3回以上 となりました。(写真3参照) バラン の製作記事をwebで検索したところ、 同じトロイダルコアでだいたい同じような巻き数で作っているようです。当たり前といえば当たり前でしょうが、計算結果が常識的な値のようなので一安心。
5. アンテナのインピーダンス
MMANAで計算するとエレメントが共振している状態
で、インピーダンスがだいたい77Ω程
度となりました。(リアルグランドの条
件では85Ω)基本的なDPだと73Ωなので、若干高いけれどほぼ同等と思います。でき
あがったアンテナ系統全体でインピーダンスを測定したところ、83Ω+j36Ωと
なりました。アンテナは共振状態、給電線も1/2λの
つもりなので、本来リアクタンスは小さな値になるはずですが、実測値はちょっと大きいように思えます。確認のため、ケーブルとバランそれぞれの特性を計っ
たら、ケーブルは1/2λよりもほんの
ちょっと短めでしたが、バランのリアクタンスが14MHzで25Ωありました。アンテナ系全体の電気的特性から、バ
ラン単体の特性、ケーブルの特性を引いたら、94Ωと
なり、MMAMAで解析した値85Ω(リアルグランド)とだいたい同じになりました。(図9)
とりあえず出来上がったアンテナですが、SWRは
3
くらいなので、整合は必要になります。コンデンサとコイルの組合せで整合回路は作れなくはないでしょうが、面倒なので案の定
チューナです。^^;
6. 実運用
至近距離のOMとは交信できましたし、国内はまぁまぁ行け そうです。とりあえずアンテナとしては動作しているようです 。3ヶ月程度運用した実績を示します。 この間、JIDX,WPXがあり、呼ん でみました。送信機はIC-7400 50W改造機です。
国名 QSO数
ロシア 27
アメリカ 8
中国 7
ドイツ 4
リトアニア 4
フィンランド 3
イタリア 2
スウェーデン 2
香港 2
大韓民国 2
1QSOだった国名
インドネシア、ウクライナ、カナダ、スロバキア、スロベニア、セルビア
タイ、ハンガリー、フィリピン、フランス、ポーランド、マレーシア、ラオス、ラトビア
7. その他
バランの差動状態のリアクタンスがわからず、ただ、さほど では無いだろうと 想像して、当初、リアクタンスを見積もっていませんでしたが、実測してみると25Ωあ り、アンテナのインピーダンス70〜80Ωと比較してあまり無視もできない値になりました。
使用した道具類はMFJ-259B(インピーダンス測定),LDM-815(ディップメータ, 同軸ケーブル波長測定),VR-500(ディップメータ周波数測定),MMANA(アンテナ特性計算),linsmith(スミスチャート)です。