6m 用ヘンテナの製作

2014-07 JQ1QNV

1. ヘンテナについて

 ヘンテナは性能のよいアンテナだとは聞いてはいました。
でもその形状からはただのループアンテナにしか見えず、
この噂は本当か?理屈に合うのか?と懐疑的に思っていたせいもあって、
今まで真面目に取り組んだことはありませんでした。
ですが、いろいろ調べてみるうちにおもしろそうなアンテナで、
特に6m向きのアンテナだと言うことも解り、今回製作してみることにしました。

2. ヘンテナの指向性と6m運用での相性

 ヘンテナは縦長にすると水平偏波になります。同じ水平偏波の水平ダイポールと比較してみましょう。
ヘンテナを垂直に立てるとその指向性は図3-1のごとく、
ループが構成する面に垂直の方向に電波が放射されるため、
水平方向(の限られた方向)にゲインが高く、多くの電波が放射され、鉛直方向にはゲイン低く放射が少なくなります。
一方、水平ダイポールのゲインは水平面で八の字ですが、垂直面は無指向性の円状になります。
つまり、水平ダイポールは電波が頭上の鉛直方向へも放射されます。
ヘンテナは水平方向に指向性があることと、鉛直方向への放射が少ない分、
エネルギーが水平の一方向に集中しますので、ダイポールよりゲインは高くなります。
自由空間でダイポールが2.15dBi、ヘンテナは5.0dBiです。
また、この特性(鉛直方向へ電波の放射が少ない)のため6m特有のメリットがあります。

 6mでは現状、水平偏波で運用する局が大多数だと思いますが、
このバンドで水平のダイポールを使用した場合、前述の通り、垂直面は指向性が無いため、
鉛直方向に放出される電波もあります。
しかし、VHFは高い角度で打ち上げた電波は電離層を突き破ってしまうので、地上に戻ってくることはありません。
要するに無駄な電波です。
ヘンテナですと同じ水平偏波でも、鉛直方向への電波は抑えられるので、
エネルギーが無駄無く水平方向へ放出されます。
また、鉛直方向への放射を嫌って、指向性を持たせたいのであれば八木の様にアレーにしてもよいのですが、
6mの場合、どうしても重くなって、釣り竿の上に配置と言うことができなくなります。

 その他のバンドはどうでしょう?。
2m以下の波長では垂直偏波での運用が多いですね。したがって、グランドプレーンのように無指向性アンテナが活躍できます。
水平方向の無指向であれば全方向見渡すことができるという点で意味があります。
無指向性と言っても鉛直方向にはゲインがないので無駄はありません。
また、エレメントの長さも長くて 1m 程度なので、指向性を持たせたいのであれば、八木の方が簡単で作りやすいです。
ループにしなくて済みますし、エレメントの強度や重さが問題になることはありません。
一方、HFはどうでしょう。電離層で反射された電波が頭上から降ってくることも十分期待できますよね。
したがって、鉛直方向の放射も意味がありますので、水平のダイポールも十分ありです。
また、HFのサイズで移動用のアンテナを作るとなると、ループではちょっと大きくなり過ぎます。

 「水平偏波が主」、「高い角度の電離層反射が期待できない」、「アレーにするには手軽という大きさではない」という
事情からすれば、ヘンテナは6mならではのアンテナと言うことができると思います。

 以前、6m垂直コリニアアンテナを作ったのですが、
(http://jq1qnv.html.xdomain.jp/body/6m_collinear_ANT/6m_collinear.html)
実は近くの電波(水平偏波)がほとんど入りません。
遠くはEスポさえ出てくれれば電離送反射で偏波面が乱れるので垂直でも機能してくれるのですが・・・。
 と言うことで、負け惜しみにも聞こえますが、
6m垂直コリニアは近くの強い水平偏波の局に邪魔されずDXができる
DX専用アンテナという位置づけになります。^^;

3. ヘンテナの設計

 ネットでヘンテナの基本的な寸法を調べてみたところ、縦3m、横1mの情報がありました。
これを元にMMANAで特性を計算したところ、ゲイン5dBi、インピーダンス75Ωとなりました。(図3-1参照)
 50Ωからは少しずれているので気持ちよく使うためにはインピーダンス整合した方がよいのですが、
今回はバランをスタブとして動作させることで解決できました。
これについては、下記の記事とブログを参照ください。
とりあえず測定編(ソータバラン、アンテナインピーダンス)
6m用ヘンテナにソータバランを入れた時の効能(blog)
ソータバランの特性インピーダンス推定(blog)

       図3-1 MMANAによるヘンテナの特性計算

4. 構造

4.1 おおまかな構造

 図4-1に概略の寸法と構造を示します。図4-2から図4-7に各部の詳細を示します。
ヘンテナは導電性のマストでも問題ない様なので、10mのカーボンファイバー釣り竿を使いました。
理由はグラスファイバーのロッドよりも剛性が高く、
ヘンテナの重量や風の影響によるしなりが少ないことが期待できるためです。

         図4-1 50MHz用ヘンテナ構造図

4.2 天側水平エレメント

 天側の水平エレメントは軽くしたいためグラスファイバーのロッドを使用してビニルコードを這わせました(図4-2、4-3)。
グラスファイバーロッドがカーボンファイバーポールに直角にかつ簡単に
取り付けられるようにするために色々考えてこの形となりました。
T字の金具にカーボンファイバーロッドを結束バンドで縛り上げエポキシ系接着剤で固めました。
それを木製のガイドに取り付けました。(図4-2)

          図4-2 A部詳細


 天側ロッドの両端にケーブルが通せるように釣り糸を通すガイドを取り付けました。(図4-3)
ガイドはエレメント(ビニルコード)の両端に取り付けた圧着端子が通せるように大きめのものを取り付けました。
ただし、ガイドに通した後で圧着端子を取り付けても、実運用上は問題なさそうです。


     図4-3 B部詳細


4.3 垂直エレメント・給電エレメント

 上側の水平・垂直エレメントとして配置した単芯ビニルコードと
下側の垂直エレメントであるステンレス線を接続している部分を図4-4 に示します。
コード側、ステンレス線側の両方に丸型の圧着端子を半田付けして、M5のなべ小ネジと蝶ナットでつないでいます。
ステンレス線側はステンレス用の半田を使用しました。

     図4-4 C部詳細


 給電エレメントも上側と同じようにグラスファイバーロッドですが、
位置調整ができるようにバッテリー用のワニ口クリップを取り付けています(図4-5)。
給電部のグラスファイバーロッドの両端に取付金具をエポキシ系接着剤で固定し、
バッテリー用のワニ口クリップを取り付けました。
取付金具は10mm✕5mmのアルミの棒材を切断してヤスリでゴリゴリやったり、タップでネジ穴を開けたりして作りました。
ストッパはM6の六角ボルトにΦ3.2のキリ穴を開けました。
当初、ストッパは計画に無かったのですが、ワニ口クリップが滑って調整がやりにくかったので追加しました。
ストッパの固定は貫通化粧ナットを使用しています。蝶ナットより軽いですし調整がしやすいです。


          図4-5 D部詳細


4.4 下側水平エレメント

 下側の水平エレメントはアルミの角材を使用しました。
調整用の下側垂直エレメントはφ3のステンレス線を使用しています。
ステンレス線の一端に上側エレメントに接続するための端子を半田付け、
もう一方の端はM3のネジを切り、下側の水平エレメントとネジ締結できるようにしました(図4-4、4-6)。
ステンレス線は想像以上に硬かったです。安物のセットのダイスでは刃が立たず、
予備で買っていたSKSのダイスでなんとか切ることができました。今思えばこの工作が一番大変だった。(体力的に)
ダイスでネジを切るのは高校の実習の時以来のような・・・
できた後、しばらくして思いついたのですが、
こんな工作するよりは、M3の長めのネジを買ってきて、ハンダ付けするなどしたほうがよっぽど簡単でしたね^^;
下側水平エレメントは10mm✕10mmのアルミ角材を使用しています。
下側垂直エレメントのネジ部を通すためのΦ3.2のキリ穴が開けてあります。


      図4-6 E部詳細


4.5 給電部

 アンテナへの給電は5D-2V等の50Ωの同軸ケーブルを使用します。今回はM型コネクタを使用しました。
ソータバランを介してグラスファイバーロッドの給電部に接続します(図4-7)。
バランはトロイダルコア FT-82-43 にΦ0.7mmのUEW線をバイファイラで6回巻いたもので、
このバランはスタブとしても機能しています。その仕組みについては 3. のリンクを見てください。
耐電力に関しては、60w電球にアンテナチューナをつないだ簡易ダミーロードに、
このバランをつないで、50wの無変調波(FM)を一分間連続で負荷してみました。
結構熱くはなりますが、触れない程ではないので、放熱を考慮して使えば問題ないと思います。
ケースは見ての通りタッパーです。加工しやすい、安い、そこそこ丈夫なので、最近の工作はタッパーが多いです。

         図4-7 F部詳細

5. ヘンテナのインピーダンス特性

 前述 3. のリンクにminiVNAによる測定結果があります、それとは別に、
4月29日に運用した時に MFJ-259B で測定したのでその時の結果を以下に示します。

周波数(MHz) SWR レジスタンス(Ω) リアクタンス(Ω 符号不明)
50.00 1.0 50 0
50.30 1.2 64 0
50.50 1.5 69 13
50.757 1.7 67 30

6. 運用

 2014年4月29日に土浦市田村町揚排水機場で50wで運用しました。
この時は1エリアばかり、かすみがうら市、小美玉市、埼玉県越谷市、坂戸市、入間郡などです(図6−1 運用風景)。
以前作った垂直コーリニアの時は近くがほとんど入らなかったので、一安心です。
これより少し前の2013年10月に同じ場所で5wで運用したときは 三重県鳥羽市と交信できました。
また、2014年5月6日に自宅のベランダに設置して50w運用しました。このときは北海道と交信することができました。


      図6-1 運用風景

©  2014  Kadowaki Isamu